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先生の声
健康寿命と歯科治療

平均寿命と健康寿命

平均寿命とは…
0歳時点で何歳まで生きられるかを統計から予測した「平均余命」のことです。わかりやすくいえば、特定の人が生きられるおおよその年齢のことです。

健康寿命とは…
「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことです。

厚生労働省は、2021年12月20日に開催された第16回「健康日本21推進専門委員会」において、資料「健康寿命の令和元年値について」を発表しました。
資料(下図:平均寿命:平成13・16・19・25・28・令和元年は、厚生労働省「簡易生命表」、平成22年は「完全生命表」)によると、男性が72.68歳、女性は75.38歳となりました。2019年の平均寿命は男性が81.41年、女性が87.45年で、健康寿命との差は男性が8.7年、女性が12.07年となっています。現在、この差を少しずつ縮小していくため、厚生労働省では、「健康日本21(第二次)」や「健康寿命をのばしましょう。」をスローガンとする国民運動「スマート・ライフ・プロジェクト」、「健康寿命延伸プラン」など、健康寿命の延伸を目指しています。

健康寿命を延ばす為の歯科の役割

我が国の高齢化が急速に進む中、国民一人ひとりの生活の質を維持し、社会保障制度を持続可能なものとするためには、健康寿命の延伸とともに平均寿命との差を縮小することが重要であることはお分かり頂けると思います。

そのため、2013年からスタートした第4次国民健康づくり運動「健康日本21(第二次)」では、「栄養・食生活」「身体活動・運動」「休養・こころの健康づくり」「歯・口腔の健康」「たばこ」「アルコール」「糖尿病」「循環器病」「がん」の9分野について、達成すべき数値目標等を掲げています。

「歯・口腔の健康」の分野においては、

(i) 口腔機能の維持・向上
(ii) 歯の喪失防止
(iii) 歯周病を有する者の減少
(iv) 乳幼児・学齢期のう蝕のない者の増加
(v) 歯科検診の受診者の増加
を目標にしております。

残っている歯の本数と健康寿命

歯の喪失は器質的な障害であり、健全な摂食や構音などの生活機能にも影響を与え、また、歯の喪失と寿命との間に有意な関連性があること疫学研究によっても明らかにされています。(Homl-Pedersen P, et al.: Tooth loss and subsequent disability and mortality in old age. J Am Geriatr Soc 2008; 56: 429-435.)
日本においても、高齢になっても自分の歯をより多く保持できている人は、死亡率が低いことや要介護になりにくいことが報告されています。(Morita I, et al. Relationship between survival rates and number of natural teeth in an elderly Japanese population. Gerodontology 2006; 23: 214-218.)
また、77,397名(男性36,074名、女性41,323名)についてのデータ分析結果によると、残っている歯が多いと、単に寿命が長いだけではなく、健康寿命が長く、一方で、要介護でいる期間が短いということが明らかにされ、その差は85歳以上でもっとも大きく、残っている歯が20本以上ある人は、0本の人にくらべて健康寿命が男性で+92日、女性で+70日; 寿命が男性で+57日、女性で+15日; 要介護でいる期間が男性で-35日、女性で-55日の差があることも報告されています。(Matsuyama Y, et al.: Dental status and compression of life expectancy with disability in Japan. Journal of dental research: 22034517713166, 2017)
ここで、健康寿命と関連する要介護について、65歳以上の要介護者が介護が必要になった主な原因を見てみると、認知症が18.7%、骨折・転倒が12.5%などであることがわかります。

残っている歯の数・義歯使用と認知症発症の関係

認知症の認定を受けていない65歳 以上の住民4,425名を対象とした4年間のコホート研究(分析疫学の1つの手法)の結果によると、年齢、治療疾患の有無や生活習慣などに関わらず、歯がほとんどなく義歯を使用していない人は、認知症発症のリスクが高くなることが報告されています。(Yamamoto T, et al.: Association Between Self-Reported Dental Health Status and Onset of Dementia : A 4-Year Prospective Cohort Study of Older Japanese Adults from the Aichi Gerontological Evaluation Study (AGES) Project. Psychosomatic Medicine 2012; 74: 241-248. )
歯がほとんどないのに義歯を使用していない人は、 20本以上歯が残っている人の1.9倍、認知症発症のリスクが高いが、歯がほとんどなくても義歯を入れることで、認知症の発症リスクを4割抑制できる可能性があることがわかっています。

残っている歯の数・義歯使用の有無と転倒リスクの関係

過去1年間に転倒経験のない 65歳以上の住民1,763名を対 象とした4年間のコホート研究(分析疫学の1つの手法)の結果、性、年齢、期間中の要介護認定の有無、うつの有無などに関わらず,歯が19本以下で義歯を使用していない人は、転倒のリスクが高くなることが報告されています。(Yamamoto T, et al. Dental status and incident falls among older Japanese: a prospective cohort study. BMJ Open. 2:e001262, 2012.)
さらに、歯が19本以下でも義歯を入れることで、転倒のリスクを約半分に抑制できる可能性があることもわかっています。 また、骨粗鬆症の方が転倒して骨折すると、その1割が1年以内に亡くなっていることから、義歯の重要性をご理解して頂けると幸甚です。
執筆者
札幌歯科 院長 坂本渉
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