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先生の声
膝の水を抜くとクセになる??

そもそも膝の水って何?

 膝(ひざ)が腫れぼったくて、曲げると窮屈な感じがして、歩き始めや階段が辛くなってくる・・・これらの症状を感じたとしたら、あなたの膝には水がたまっているかもしれません。
 そもそも膝の水とは何なのでしょうか?実は膝の水は健康な膝にも少量あり、潤滑油の様な働きをしています。ふだんの水は1~3mlしかありませんが、いろいろな原因で膝に炎症が起こると、膝を包んでいる袋から水がたくさん作られます。これが「膝の水」の正体です。
 私は、患者さんに「膝の水は膝の涙」「風邪をひいた膝の鼻水」と例えてお伝えしています。その理由は後ほどに。膝の水は膝が自身を守るために頑張った結果の産物なのです。

なぜ水がたまるの?

 40歳を超えると多くの人の膝の軟骨に小さなキズやすり減りが起こってきます。その軟骨のキズから炎症物質が出て来ることがわかっています。それが膝の中に拡がって、膝を包んでいる袋に炎症を起こさせます(1)(2)。
 このときに膝の袋の細胞が水を作り出します。そのような炎症の繰り返しで水がたまっていきます。この膝の水の役割ですが、実はまだ全てはわかっていません。
ですが膝の炎症物質を洗い流したり、軟骨のキズを保護したりする役割があると考えられています。
 皆さんの目にゴミが入ったときに涙が出ますね。これはゴミを洗い流そうとするためです。目が真っ赤に充血してしまいますが、涙によってゴミはなくなり目は守られます。風邪をひいたときの鼻水はどうでしょうか。鼻粘膜に炎症が起きて鼻がつまって鼻水が出てきますが、これも鼻や喉の病原体を早く排出して体を守る役目があるのです。

水は抜くとクセになる?

 クセにはなりません。でも、膝の水を抜いてもまたすぐたまってきますね。何度抜いても繰り返すので、先人達は「水を抜くとクセになる」「水を抜くと膝がボロボロになる」と表現したのかもしれません。これは膝自体の調子が悪いままだからです。膝の調子をよくする治療を行うことによって水を少なくする事が期待できます。
 たとえばですが風邪をひいて鼻水をかんでいる人に「クセになるから鼻をかむのやめなさい」とは言いませんよね。風邪そのものが治らなければ鼻水は出続けます。膝も同じ事が言えます。

水を少なくするには?

 膝の炎症を抑えることが重要です。膝の軟骨を保護して膝の袋の炎症も抑える働きのある関節注射(ヒアルロン酸、ステロイド剤)が特に有効です。この時は薬が薄まらないように膝の水を抜いてから同じ針で薬を注入します。皆さんが敬遠しがちな「単なる痛み止め」も、正式な名称は「消炎鎮痛剤」といって膝の炎症を抑える効果がありますので毛嫌いしないでください。
 そして、お薬も大事ですが、あなたご自身による体重コントロールや体操などの基本的な生活改善が最も重要です。実は私も膝の専門医ながら、膝に水がたまって痛くなり、慌てて減量したら痛みも楽になり、水がたまらなくなったという経験があります。なかなかしつこい水ですが、水そのものは凶悪犯人ではありませんので必要以上に怖がらないで結構です。
 ちなみに真犯人は「変形性膝関節症」という膝のすり減りなんです。気になったらご近所の整形外科医に相談してみましょう。
 具体的にどんな体操がいいのか、生活環境の改善はどうしたらよいのかなどについては、実は一般の方々が勘違いしやすいところがたくさんあります。次回の機会に、その点をいくつかお話しさせていただきたいと思います。

出典
(1)Li X J Rheumatol 2005
(2)Benito MJ Ann Rheum Dis 2005
執筆者
我汝会さっぽろ病院 整形外科部長 浜口英寿 (ひざ担当)
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